
著者:
レイモンド・チャンドラー訳:
村上春樹 書名:
ロング・グッドバイ発行:早川書房
完成度:★★★★★
遂に発売!村上春樹氏入魂の翻訳。
<マーロウは酔いつぶれたテリー・レノックスに出会い、なぜか彼を見捨てられずに介抱する。大金持ちの逆玉に乗ったレノックスだったが、放蕩な妻を殺した容疑をかけられ、マーロウに助けられてメキシコへ逃走する。その後マーロウは、流行作家の美しい妻アイリーンに夫の行方探しを依頼される。マーロウが連れ戻したその作家ロジャー・ウェイドはアル中で、何かに怯えていた。ある日、マーロウはウェイドに自宅に呼び出され、そこで事件は起きた。>
半年くらい前から話題沸騰。どう考えても
ミスマッチな、村上春樹とフィッリップ・マーロウ。
どうなることかと思って読んでみたら、もの凄くまともな訳でした、って当たり前なのだけれども。
とにかく読みやすい。リズムがいいからひっかからない。斜め読みせずに一字一句拾っているのに、本文533ページがあっと言う間に終わってしまいました。とにかく素晴らしい訳に違いありません。
清水俊二氏訳 『
長いお別れ』 を読んだのは学生時代で、内容は完全に忘れていました。しかしこの村上訳のように、風景や人物が浮き上がってきたという印象はなかったような気がします。というか、
名文家チャンドラーの魅力を完全に伝えている春樹氏はやはり凄い!
原作の内容もオーソドックスなミステリーでとても楽しめました。やはりマーロウがカッコイイですね。
チェス好き、酒好き、女好き。芯が通って義理堅く、皮肉屋でロマンチスト。ケンカも強いし、頭も切れる。
で、ミステリーのオチには納得しましたが、最後のセニョール・マイオノラスの登場は蛇足に感じました。
今回の訳(あるいは文章)で面白かった箇所。
p31「
お座敷プードルのような生活」
p54「冷ややかで尊大な…警官の目だ。彼らは警察学校の卒業行進のときに、そういう目を一揃い授けられるのだ」
p78「警官のバッジをつけた
与太者」
p103「それこそ
釈迦に説法でしょうが」
p106「お前は五セント玉みたいな
はんちくなんだよ」
p158「トスカニーニから見たオルガン弾きの猿みたいなもの」
p512「フランス人というのは・・・どれもがうまくつぼにはまる。
さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」
最後の有名なセリフは意外とシンプルな訳でした。
1ヶ所だけ気になったところ。
p121「ルイ・ロペス(チェスの古典的な開始法)にとりかかったのだが…」
()注釈は村上氏がつけたものと思われますが、「開始法」は「オープニング」がベター。トリビアですが。
今回のあとがきは『
グレート・ギャツビー』ほどの熱情はみられませんでした。その代わり45ページもあって読み応えあり。チャンドラーの文章の上手さ、
ハメットやヘミングウェイ、フィッツジェラルドなどの影響、チャンドラーの生涯などについて詳しく語られています。
清水訳を「古き良き時代ののんびりした翻訳」と書いたのはいささか僭越のそしりを受けるかもしれないですが。やれやれ。
とにかくこの厚い本を読んで、私の人生に新たな彩りが加えられたことは確かです。