ストレスがたまったら本のまとめ買い。結果は積ん読。なんとかしなきゃ…。ということで書評のブログです。ときに音楽や趣味の記事も…。
by bibliophage
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『靖国問題』 クリアな分析と曖昧な対策
d0018433_1261655.jpg著者:高橋哲哉 
書名:靖国問題
発行:筑摩書房
明快分析度:★★★★☆

現代西欧哲学を専門とする東大教授 高橋氏による靖国問題の分析。

多面的に靖国を取り上げて、そこに存在する問題を議論しています。
第一章は「感情」。歴史的には、靖国神社が、戦死者を顕彰(広く世間に表彰)することで、遺族の感情を「悲しみ」から「名誉」へと変換する「感情の錬金術」の中心機関であったということを説明します。
第二章は「歴史認識」。A級戦犯分祀問題と旧植民地出身者の合祀取り下げ問題について語ります。靖国問題は、戦争責任だけでなく、近代の植民地主義全体からとらえないといけない、というのが主張です。
第三章は「宗教」。憲法20条の政教分離規定により、首相の参拝は違憲になる、これは司法の判断でもあること。公式参拝をおこなうためには、①憲法「改正」か②靖国の特殊法人化しかないが、どちらも現実には不可能であること。また、戦時下においてキリスト者が無惨にも靖国信仰の中に取り入れられたこと、などが述べられます。
第四章は「文化」。靖国が「日本の文化」の問題であるという議論を糾弾しています。靖国が祀るのは「軍人の戦死者」だけであって、国内の民間人の戦死者は蚊帳の外であることなどが記されています。

次に、第五章「国立追悼施設」の話に進みます。以上の諸問題を自覚しつつ、「戦没者追悼」にこだわるためには「無宗教の国立施設」の建設という選択がでてくる。しかし「靖国派」の抵抗があって棚上げ状態である…。

ここまでは、著者の分析はとても明晰で、そうなのかと思いながら読み進みました。では、どういう対策を考えるのだろうのかと思っていると、
新たな追悼施設でさえ第二の靖国になる可能性は十分あり得る。それを絶つためには、戦争に備える軍事力を実質的に廃棄することだ
と来ました。
残念ながら、北朝鮮が核をちらつかせ、中国・韓国が常に国境を脅かしている現在、国防力を放棄するというのは非現実的であり、この部分の蛇足が惜しまれます。

しかし、靖国問題の由来から本質、現在の状況までをわかりやすくまとめた本書の意義は大きく、一読の価値はあると思います。
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by bibliophage | 2005-06-13 12:16 | 新書
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