ストレスがたまったら本のまとめ買い。結果は積ん読。なんとかしなきゃ…。ということで書評のブログです。ときに音楽や趣味の記事も…。
by bibliophage
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カテゴリ:その他小説( 65 )
『ららら科學の子』 中国帰りのスロウ・ボート
d0018433_6181230.jpg著者:矢作俊彦 
書名:ららら科學の子
発行:文芸春秋(文庫)
活劇度:★★☆☆☆

三島由紀夫賞受賞作。

<学生運動のさ中の1968年、1人の男性が警察官に対する殺人未遂で手配される。日本の学生と連帯したいという中国人の招きに乗って、彼は上海に渡る。以後、貧村での30年の暮らしを経て彼は現代の日本に帰国した。>

文庫本528ページの大著です。全共闘世代の熱気、中国での苦難の生活、帰国後の浦島太郎的なギャップ、などが詳しく書かれています。

それにしても長すぎますねぇ。30年前と現代の東京の比較の話が延々と続くのには、さすがに私も根を上げました。で、途中から斜め読みに切り替え。これが功を奏して、ストレスが軽減し、最後まで読めました。

エンターテインメントとしては語るところはありません。中国脱出に使った蛇頭に捕らえられてもすぐ釈放されるし、女性との関係も異常にストイックだし…。
別れた妹の代わりの存在としてなのか、女子高生と知り合いになるのですが、これがかなり不自然。また、30年前妹と別れた際の描写が何度も出てくるのに辟易します。

面白いと思ったのは、学生時代の友人志垣の存在。ともに中国に行く予定だった志垣は、とある理由ですっぽかし、それが心の底のコンプレックスになっていて、帰国後の彼の金銭的な世話をやきます。その志垣はハワイにいて電話でしか話をしない、という設定はなかなか興味深かったです。
彼が30年ぶりに妹に電話する場面もあっさりしていて好印象。ハードボイルド風というか、諦念的というか、そんな雰囲気が流れています。

結局のところ、残念ながら、私にはこの作品があれだけ話題になった理由がわかりませんし、映画化されると知ってまた驚いています。受容体が欠けているみたいです。
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by bibliophage | 2006-10-30 06:25 | その他小説
『手紙』 祝、映画化。
d0018433_22201632.jpg著者:東野圭吾 
書名:手紙
発行:文芸春秋(文庫)
発想度:★★★★☆

2001-02年毎日新聞連載→2003年単行本→2006年文庫化+映画公開。

<唯一の肉親である兄が強盗殺人で逮捕された高校生直貴。彼のその後の人生には、殺人犯の兄の存在がいやでも影響を及ぼしてくる。仕事、音楽活動、恋愛…。ようやく手に入れた家庭での幸せにまでもその影がさしてきた時、直貴はある決心をする。>

面白かったです。
まず、殺人犯の家族を主人公にするという発想が凄い。こういう設定の話は初めて読みました。
しかし「涙のロングセラー」というコピーはどうか?泣けるところはあまりないですねぇ。

東野氏の作品は細かい点まで考えられているところに好感が持てます。
母の「学歴が大事」という刷り込み→弟だけは大学に入れてやりたい、
兄が体を壊して働けなくなる→強盗、
手紙の代筆→ワープロを使う、等々。
この辺が理系的という印象の所以ではないかと思いました。

差別されるのは、当然なんだよ」と言った直貴の勤務先の会社社長。彼が結局何を言いたかったのか、この辺は不明。

ミステリーではない話なので、最後いったいどうやって終わるのかと思っていたのですが、なるほどそういう落としどころでしたか…。

冷徹な面を持ち合わせる主人公、直貴役のイメージとして藤木直人が浮かぶ私は時勢に疎いことがわかりますw。映画では山田孝之でした。相手役は沢尻エリカ。試写会の評判は上々のようです。
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by bibliophage | 2006-10-20 22:25 | その他小説
『つきのふね』 フィルムキャプターさくら
d0018433_64029100.jpg著者:森絵都 
書名:つきのふね
発行:角川書店(文庫)
青春度:★★★★☆

森絵都さんの作品ははじめてです。

<中学三年のさくらは親友の梨利と仲たがいしていた。なんとか2人を取り持とうとする勝田君。さくらの心が休まるのは、スーパーの店員でさくらを助けてくれた智さんの部屋にいる時だけだ。けれど智さんは、地球を救う宇宙船の設計に熱中して、次第に精神のバランスをくずしていった。>

さらさらと読めました。展開がどうなるのかと期待させつつ、ゆるゆると話が進んでいきます。智さんとさくらが知り合ったきっかけの所は、おっと思わせます。勝田君の冗談の予告が最後に効いてくるところなどは上手いですね。

ジュブナイルということで、全体に一線を越えて話が進まないように歯止めがかかっています。ですので、さわやかですが、ちょっと物足りない感は仕方のないところ。
次は是非、一般向けの『永遠の出口』を読んでみたいと思いました。
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by bibliophage | 2006-10-10 06:42 | その他小説
『地下鉄に乗って』 タイムスリップ・終戦後
d0018433_7102311.jpg著者:浅田次郎 
書名:地下鉄(メトロ)に乗って
発行:講談社(文庫)
ファンタジー度:★★★★★

10/21~映画公開ということで、駆け込み読書。吉川英治文学新人賞。

<久しぶりにクラス会に参加した帰り、真次は地下鉄の連絡通路を歩いていて突然30年前にタイムスリップした。それは、父と喧嘩をした兄が地下鉄に飛び込んで死んだまさにその日だった。その後もタイムスリップは続き、真次はアムールという人物と知り合い、時代は遡っていった。驚くべきことに愛人であるみち子も同じ内容の経験を持ったという。2人のタイムスリップの行き着く先はどこなのか?>

いやぁ、これは面白かった。発想と話の展開、ミステリー的なオチまで素晴らしい!

立志伝中の人物である父から離れて母とともに暮らす真次。父と真次との間の葛藤が話のメインにあり、そこにみち子がからんでタイムスリップが起きます。


仕掛けの一つは途中でわかるのですが、最後の話の着地点は全く想定外でした。
やられた、という感じでしかも泣けても来るという完全に浅田氏の術中にはまってしまいました。やれやれ…。

こういうオチのある話の場合、原作を読むとおそらく映画を楽しむのが難しいのではないかと思います。
…と言いながら、私はたぶん映画も見に行くことでしょう。
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by bibliophage | 2006-09-27 07:11 | その他小説
『安徳天皇漂海記』 マルコの冒険
d0018433_063994.jpg著者:宇月原晴明 
書名:安徳天皇漂海記
発行:中央公論社
怪異度:★★★★☆

山本周五郎賞受賞。ダカーポ誌上でかの豊崎・大森コンビが一押し。

<源実朝は鎌倉3代将軍ではあったが、実権は北条氏に握られ、和歌の世界の人となっていた。ある日、実朝は従者の若者とともに江ノ島の洞窟に導かれ、壇ノ浦に沈んだはずの安徳帝が琥珀に包まれた姿で存在することを知る。時・所は移ってクビライ・カーンに仕えるマルコ・ポーロ。マルコは帝のその不思議な話を聞き知っていたが、滅び行く南宋の少年皇帝の元で実際に安徳帝の姿を見ることになった。>

鎌倉歴史ファンタジーとでも申しましょうか。とにかく不思議な物語です。

パート1:実朝編。パート2:マルコ・ポーロ編。
パート1は「吾妻鏡」の記述に従い、実朝の歌をfeature しながら、安徳幼帝との不思議な出会いから実朝の死までを語ります。ややテンポが遅めで、古文が入ったりするので読み進みにくい印象がありました。
それに比してパート2はマルコ・ポーロが主人公で小気味好く話が進みます。彼は南宋皇帝の最期と安徳帝の昇天?を見届けます。

時折、素晴らしく美しい風景イメージ描写が出てきます。実朝を海へと導く真っ赤な幕の場面、南方の島での蜜でできた湖の場面など。

平家物語の名調子を中国風?に訳した節が心に響きます。
「サヘートの庭に響く鐘の音は
あらゆるものがうつろいゆくことを教えてくれる
サーラ樹の花の色は…」


先入観では「安徳天皇が生き返って大活躍!」かと思っていましたが、全然違いました。もしそうだったならライトノベルになってしまいますねw。
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by bibliophage | 2006-09-23 00:04 | その他小説
『快楽の封筒』 ネコ殺しの作家
d0018433_6481254.jpg著者:坂東眞紗子 
書名:快楽の封筒
発行:集英社(文庫)
官能度:★★★★★

タヒチ在住、ネコ殺しの告白で時の人となった坂東さんの官能短編集。

<マンションに住む鏡子はサラリーマンの夫、幼稚園児の娘と3人暮らし。ある日廊下で、ふと隣に住む男と目を合わせてから、彼女は彼のことが忘れられなくなった。(「隣の宇宙」)>

これは面白かった。
いろいろなしがらみの中で、自分の心に忠実に生きる女性の性の形を繊細かつ大胆に描いています。

ベニスのお祭りでのヨリコと3人のイタリア人(「謝肉祭」)、貧しい山村における男女(「蕨の囁き」)、遊びに行ったイタリアで美しい少年に出会った中学生(「アドニスの夏」)。
その他、「奪われた抱擁」、「二人の兵士の死」、「母へ」
最後に表題作「快楽の封筒」。ここでは「隣の宇宙」における二人の関係が夫に知られることになり…。

イタリアの話から日本の寒村まで、その幅広い描写力が凄い。
女性から書かれた官能小説というのはこういうものかと理解しました。(性器の呼称はもう少し考えて欲しいが…)
とにかく、直木賞・柴田錬三郎賞などの受賞歴にも納得です。

子ネコ殺しについては、やはり「崖から投げ落とすなら、どこか遠くに捨ててきてね」と言いたいですね。
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by bibliophage | 2006-09-06 06:52 | その他小説
『愛のひだりがわ』 筒井式ジュブナイル
d0018433_03504.jpg著者:筒井康隆 
書名:愛のひだりがわ
発行:新潮社(文庫)
成長度:★★★★☆

「時をかける少女」「富豪刑事」の筒井氏が描く少女の成長譚。

<母が死んで一人ぼっちになった小学生、愛。彼女は左手が不自由だが、犬と会話する力を持っていた。治安が悪くなった近未来の日本で、愛は失踪した父を探す旅に出る。少年サトル、犬のデン、ご隠居さん、詩人の志津絵さんらの助けを借りて愛の成長の旅は続く。>

殺伐とした世界における心温まる交流の話という対照性がいいですね。
左手の使えない愛(ちゃん)のひだりがわには必ず誰かがいて助けてくれる、というのがタイトルの意味です。

ジュブナイル(児童文学)らしく、殺人の場面もあっさりだし、愛ちゃんはいつも勉強してかしこくなっていくという教育的内容などを含んでいます。愛ちゃんの旅も、よく言えば展開が読めない、悪く言えば行き当たりばったり、に進んでいきます。

愛ちゃんたちが超音波でハマグリを取る場面がなかなか印象的でした。こういった絵が浮かぶようなシーンをつないでいくのはさすがに筒井氏の技だと思いました。また、戦闘シーンは得意なドタバタを避けて淡々と描かれています。

最後が類型的なパターンだったりと、気になるところもありますが、ジュブナイルということでさらっと読むのが吉かと思います。

虚人たち」との対比で語った村松友視氏による解説も読み応えがありました。
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by bibliophage | 2006-08-23 00:42 | その他小説
『水曜の朝、午前三時』 韓流1970年
d0018433_04010.jpg著者:蓮見圭一 
書名:水曜の朝、午前三時
発行:新潮社(文庫)
懐古度:★★★☆☆

蓮見氏のデビュー作のベストセラー小説。

<45歳で脳腫瘍で世を去った直美。彼女は、娘に4巻のテープを残した。そこには1970年の万博でコンパニオンをしていた直美のかなわなかった恋愛の話が吹き込まれていた。>

この話はとても読みやすく、品の良いオールド・ファッションド・ラブ・ストーリーだと思います。
しかしオビの児玉清氏のように「涙が止まらなくなった…」ということはなかった。彼はいったいどこで泣けたのだろうか…?

<1970年万博。許婚が東京にいる身でありながら、別の男性に惹かれる主人公直美。しかし、相手の出自のため結婚することが適わず、東京へ戻る彼女。そして結婚後の再会…>。

確かに、直美は当時としては進歩的な女性なのでしょう。その行動力にも感心しました。

しかしこの現代(出版2001年)に、出自のポイントでの悲恋を描こうとした作者の見通しはいかなるものだったのか。いや、結果的には成功したわけですが…。
もし若い人々にも受けたとすれば、「かなわぬ恋」という普遍的なテーマの勝利だったのか、はたまた「(結婚は別として)恋愛は見かけが9割」という真実の力か。

私的には、文中にポピュラーミュージシャンの名前が次々と出てくるところが楽しめました
ボブ・ディラン、セルジオ・メンデス、モンキーズ、デヴィッド・ボウイ、CCR、ビーチボーイズ、フランク・ザッパ、ジャニス・ジョプリン、ヤードバーズ、エアロスミス。
小説のタイトルはサイモン&ガーファンクルから取ったものだそうです。

人それぞれでかなり異なる感想が湧きそうな小説、ということで一読に値すると思います。
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by bibliophage | 2006-08-19 23:53 | その他小説
『黒い雨』 終戦記念日に
d0018433_8211074.jpg著者:井伏鱒二 
書名:黒い雨
発行:新潮社(文庫)

いつかは読もうと思っていた作品。8/6に原爆の記事を目にして読んでみました。

<終戦後4年。閑間重松は妻しげ子、姪の矢須子と広島の山村に住んでいた。重松は被爆したものの症状は軽い。矢須子は元気だが、直接被爆したように噂されて縁談がまとまらない。重松は当時を思い出して「被爆日記」を清書していた…。>

「被爆日記」を清書する、という形で話が進み、時々現時点(4年後)の戻るという書き方のため、淡々とした印象を与えます。重松静馬著『重松日記』を原資料とし創作を加えたもの(Wikipedia)ということで、ドキュメンタリー色が強くなっています。名文家として知られる井伏氏が、原爆投下直後の広島の壊滅的状況、人々の悲惨な有様を粛々と書いて、目に浮かぶように再現しています。

色々な人々の観点から書かれた原爆投下時の状況。絶望的な話だけでなく、九死に一生を得た医師の挿話などもあり、読み応えがありました。
僧侶も間に合わないほどの死人の数のため、勤務先の工場長に命じられて、重松はお経を読む係りとなります。死者の家族からお布施を押し付けられて戸惑う重松。こういったエピソードがとても興味深いところでした。

最後に物語として大きな展開があり、余韻を残して話は閉じられます。

d0018433_8185531.jpg映画も観てみました。

今村昌平監督1989年作品。重松夫婦と姪に、北村和夫、市原悦子、田中好子。
田中好子が可憐で良かったです。
原作に忠実な筋書きに加えて、新たな登場人物も加わり、ドキュメンタリー色を薄めて作られています。
白黒映画であるところがピッタリで、こちらも見る価値は十分にありました。(8/15の夕刊フジでもおすすめDVDになっていました。)

戦争に巻き込まれるのだけは勘弁して欲しいと痛切に感じました。アメリカというのは昔から現在まで変わらない凶暴な国です。
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by bibliophage | 2006-08-15 08:28 | その他小説
『イッツ・オンリー・トーク』 セクシュアル無駄話
d0018433_874280.jpg著者:絲山秋子 
書名:イッツ・オンリー・トーク
発行:文芸春秋(文庫)
文章力度:★★★★★

「沖で待つ」で芥川賞を受賞した絲山さんのデビュー作。

<蒲田に引越してきた優子は、大学時代の友人で都議会議員の本間に出会う。そして、自殺しそうだったいとこの祥一を連れてきて、本間の選挙事務所で働かせる。他にネットで知り合ったうつ病のヤクザの安田や、大人の「痴漢」kさんと会ったりもする。>

久しぶりに流れるような文章を読みました。
読んでいて全くひっかからない。無駄な修辞がなく、かつストーリーもうまく流れていきます。

主人公のセックス観も、さっぱりしていて自堕落でもなく、いい感じです。
最大の発明は「痴漢」と称されるkさん。愛がないのに心がこもった指使い。
解説の書店員女史も絶賛していました。…「日本中の悩める女子に「痴漢」を。」だって!
今までの女流が誰も書けなかった存在でしょうね。

途中にはさまれる車やクリムゾンの音楽の話もいいですね。
最後はプログレ好きにはたまらないカッコよさでした。

「第七障害」は、馬から落ちて落馬した女の子のごく普通の話でした。
解説によれば作品は、絲山A:働く女性共感モノ、絲山B:精神破綻者モノ、と別れるようで、「沖で待つ」はA。個人的にはBの方に興味が湧きます。
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by bibliophage | 2006-07-28 08:10 | その他小説