ストレスがたまったら本のまとめ買い。結果は積ん読。なんとかしなきゃ…。ということで書評のブログです。ときに音楽や趣味の記事も…。
by bibliophage
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カテゴリ:その他小説( 65 )
『君たちに明日はない』 アイデアとフットワーク
d0018433_6131074.jpg著者:垣根涼介 
書名:君たちに明日はない
発行:新潮社
購入動機:書店で目について
軽妙度:★★★★☆

『ワイルド・ソウル』の垣根涼介氏による、軽いタッチのビジネス・ラブストーリー。

梅森浩一氏の「クビ!論」をヒントに、「日本ヒューマンリアクト」なるクビ切り専門会社に勤める村上真介を主人公として、リストラ対象の人間とのかかわりを5つの話にまとめています。

33歳の真介は、見た目も良くてマメな男。年上のきつい女性が好みで、自分の担当する建材会社のリストラ対象の41歳芹沢洋子とつきあうようになります(1章)。その他、優秀だった高校時代の同級生の銀行員(3章)や、名古屋の自動車会社のコンパニオン(4章)、音楽プロダクションのプロデューサー(4章)らと渡り合います。

リストラ対象といっても、仕事はできるのに合併で干されている人物像だったりで、それほど悲壮感がなく、洋子を含めてうまく転職したりします。ですから読後感はさわやかです。何か脚本のような感じで、TVドラマにぴったりの印象です。ちょっとあっさり過ぎるかもしれません。

真介がバイクレーサーだったというバックストーリーや、名古屋に関するディテイルの描写も興味を引きました。

それにしても、「クビ!論」を見てあっと言う間に話を作ってしまう、その目利きがすごいと思いました。
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by bibliophage | 2005-05-01 06:16 | その他小説
『僕のなかの壊れていない部分』 ハ-ドボイルド・ラブストーリー
d0018433_6455694.jpg著者:白石一文
書名:僕のなかの壊れていない部分
発行:光文社
購入動機:書店で目について
内容凝縮度:★★★★★

出版社勤務を経て専業作家となった白石氏の4作目。

主人公の僕:松原直人は仕事歴8年の編集者。記憶力がよく、エーリッヒ・フロムなどからの引用がすぐに出てくる。美人のスタイリストで恋人の枝里子と出会ったときも、三島由紀夫についての薀蓄で彼女の気を引いた。枝里子以外にも、スナックで働く年上で子持ちの朋美、有閑マダムの昭子の二人と関係を持っている。

この作品の「僕」は、村上春樹の「僕」と違って、屈折して懐疑的で、すぐ切れるし、厭世的で、あまりサワヤカな人物とは言えません。しかし、人間が生きなければならない理由をいつも考えていて、釈迦のようでもあります。自分をないがしろにした母への恨みと、子供の時に優しくしてくれた別の女性の影響の上にこの「僕」の考え方は形成されています。

「僕」に惹かれる枝里子の気持ちがわかります。知的で影があって、時に怒ったと思ったら、次には甘えてくるし、sexも上手い。ダメンズと違って仕事もできる。

各人物がよく書かれていて存在感があります。「僕」の記憶力がよい理由が後半明らかになりますが、このエピソードが秀逸です。編集者の仕事内容が書かれていて興味を引きます。リーダビリティも高いです。

内容の濃い話で、読む価値があると思いました。
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by bibliophage | 2005-04-25 06:50 | その他小説
『幸福な食卓』 あっさりしているようで深い話 
d0018433_1302020.jpg著者:瀬尾まいこ 
書名:幸福な食卓
発行:講談社
購入動機:他の本の記載から
不思議度:★★★★☆

書き出しはすべての小説において非常に重要です。読み手がそこで話に乗れるかどうか決まるわけですから。それにしてもこの1行目には参りました。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」

この不思議な出だしのせいで、一気に物語に引き込まれます。

登場人物が全員ユニークです。私:佐和子は優しいけれども大人のようにクールなところのある中学生。兄の直は勉強もスポーツも万能なのに、大学進学をやめて農業に従事する変わり者。父は自殺未遂をした後に教師の仕事を辞め、なぜか薬学部の受験生に。母は父の事件の後に家族3人と別居することになるが、いつも夕食を作りに来る。
この4人の家族を中心とする4つの連作です。

「幸福な朝食」では、本当は優しい転校生坂戸君が4ヶ月でまた転校してしまう。
「バイブル」では、失恋してばかりいる直に、新しいド派手な彼女(小林ヨシコ)ができる。一方、佐和子は高校受験の塾で、単純明快な大浦君と知り合う。
「救世主」では、同じ高校に合格した佐和子と大浦君は、いつの間にかつきあっていた。クラスで窮地に陥った佐和子は、大浦君のアドバイスに助けられる。

このあたりで、何か少女漫画の世界に入り込んだような気分になりました。不思議な家族の間の奇妙な関係の話が、大浦君の登場で急に俗っぽくなったように感じられたからです。しかし、それも作者の周到な計算によるものでした。
「プレゼントの効用」では、大浦君はクリスマスプレゼントを買うために新聞配達を始め、佐和子はマフラーを編みます。その後に、話が大きく展開します。

佐和子と直の会話がユーモアにあふれていて笑えます。
父の自殺未遂の原因とか、直が女の子にすぐ振られる理由とか、あまり詳しく書かれていません。佐和子の成長小説として続いていきそうなので、今後少しずつはっきりするのかもしれません。

全体にあっさりと書かれているのに深い味わいのある小説だと思いました。
(大浦君の手紙に「おれはそういうハイカラなのは苦手だ」とあるのは、最近の高校生に流行の言い回し?)
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by bibliophage | 2005-04-18 01:37 | その他小説
『パイロットフィッシュ』 ソフトで快適にした春樹的世界
d0018433_28893.jpg著者:大崎善生 
書名:パイロットフィッシュ
発行:角川書店
購入動機:著者のファン
快適度:★★★★★

私は大崎氏の文章が好きです。ダ・カーポの西荻日記は必ず読みます。文に温かみがあって、ジョークのツボがいいです。ダジャレ好きで週一回行きつけの店でダジャレ大会、というのも笑えます。「将棋の子」もとても面白かったです。

40過ぎの編集者である「僕」(山崎)に、大学時代の恋人だった由希子から19年ぶりに電話がかかってきます。それから、由希子との出会いから別れまでの昔の記憶と、出版社での仕事や編集長沢井の死という現在の状況との間を行きつ戻りつして話が進みます。

とにかく話の流れがうまくつながっていて、伏線が必ず後で効果的に働いてきます。恋人を寝取られたスウェーデンのバンド(アバ?)の女性の話が最初の方で出てきて、同じような状況になった由希子はその話になぞらえて「僕」に別れを告げます。ここが最高にいい場面です。

優しい性格の「僕」は、色々な薀蓄を傾けながら料理もし、女の子とも仲良くなって…って何かに似てると思ったら、村上春樹じゃないですか。実際、大崎氏のインタビューを読むと彼は相当な春樹ファンのようです。
 
とにかく、久しぶりに気持ちのよくなった小説でした。これはおすすめです。
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by bibliophage | 2005-04-15 02:14 | その他小説
『あなたに似た人』 奇妙な味の短編
d0018433_7493012.jpg著者:ロアルド・ダール
書名:あなたに似た人
発行:ハヤカワ
購入動機:他の本の記述から
奇妙な後味度:★★★★★

阿刀田高の『ミステリーのおきて102条』にとりあげられていたので読みました。
短編の名手というと、O・ヘンリーやサキくらいしか知りませんでしたが、ロアルド・ダールの短編にはもっと変な感じというか、洗練された皮肉っぽさというような雰囲気が漂っています。
 
ワインの利き酒比べでアツくなり、自分の娘まで賭けてしまう話<味>。メアリが夫を殴り殺すのに使った特別なものとは?<おとなしい凶器>。ライターにうまく火がつくかどうかに、キャデラックと手の指を賭ける<南から来た男>。客船の時間航行距離当てクイズの懸賞金欲しさに、男が取った行動は?<海の中へ>。背中の刺青が(それを描いた画家が有名になったせいで)、値打ちモノになってしまった老人の運命<皮膚>。その他、<毒><音響捕獲機><クロウドの犬>などの15編。

阿刀田氏はこの中から<味><南から来た男><海の中へ>をベスト3としています。私は1<皮膚>2<海の中へ>が好きでした。もの悲しいオチが心に残ります。

訳者の田村隆一氏によれば、ダールのテーマは二つ「賭博に打ち込む人間の心の恐さ」と「人間の想像力(間違った空想)の恐さ(と馬鹿馬鹿しさ)」で、前者の代表がダール最高の短編と言われる<南から来た男>とのこと。氏はダールの大ファンだけに、奇妙な雰囲気がよく出ている名訳ではないかと思いました。

(ひとつ残念なのは、私は<兵隊>のオチがいまだによくわからないことです。2chのミステリ板でもそのようなカキコがありました。わかる方は教えてください。)
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by bibliophage | 2005-04-12 07:54 | その他小説