ストレスがたまったら本のまとめ買い。結果は積ん読。なんとかしなきゃ…。ということで書評のブログです。ときに音楽や趣味の記事も…。
by bibliophage
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『ビタミンF』 懐かしいホームドラマ
d0018433_5455098.jpg著者:重松清 
書名:ビタミンF
発行:新潮社(文庫)
家族の絆度:★★★☆☆

2000年に直木賞を受賞した重松氏の短編集。
すべて40歳前後の中年男性が主人公で、(中学生の)子供、妻や周囲との間に起きる問題に頭を悩ませるという設定です。

「げんこつ」 同じマンションに住む不良中学生
「はずれくじ」 ワルの友達の誘いを断れない軟弱な息子
「パンドラ」 高校中退のフリーターと付き合う娘
「セッちゃん」 イジメを受けている娘の同級生
「なぎさホテルにて」 平凡な妻に対する嫌悪感
「かさぶたまぶた」 優等生の娘とすべてにそつが無い父親
「母帰る」 熟年離婚した両親の関係


文章が読みやすく、あっという間にページが進みます。さすがに直木賞。
人生が半ばを過ぎた中年男性の不安感と、家族との葛藤が書かれていて、必ず最後はハッピーな方向に進んでいきます。

確かに展開がうまいと思うし、家族の問題が浮き彫りにされているのは認めます。しかし、何か違和感が…。主人公の考え方が、ちょっと古く感じられます。団塊の世代の思考パターンをその下の世代に無理に入れ込んだ印象が。物語を作る上で、確信犯的になされているのかもしれません。

セッちゃん」は、さすがにイジメのルポを書いていた作者だけあって気にいりました。あとは、昔懐かしいTVのホームドラマの印象でした。優れた作品集だと思いますが、自分の好みと微妙にずれている感じです。
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by bibliophage | 2005-06-30 05:50 | その他小説
『ネコソギラジカル(上)』 リズミカルな文章で引っ張ってます
d0018433_7184359.jpg著者:西尾維新 
書名:ネコソギラジカル(上)
発行:講談社
根こそぎ度:★★★☆☆

メフィスト賞出身、すさまじい人気の西尾氏「戯言(ざれごと)シリーズ」最終章の序章。
『ネコソギラジカル(中)』がすでに販売されていて、ネットや書店売上げでも一位を記録する人気。初心者としてはまず(上)から入った方がわかりやすいかと…。

以前の戦いの負傷で入院中の主人公:ぼく:いーちゃん。みいこさんと崩子ちゃんがお見舞いにきている所に、「十三階段」の一人奇野頼知が現れた。持っていた「狐面の男」からの手紙。それが宣戦布告の合図だった。ぼくは、敵の待つ澄百合学園に仲間とともに乗り込む。

(上)から読んでも、前の話とのつながりがわからなくて大変でした(苦笑)。登場人物表じゃなくて、それまでの経過を書いておいて欲しい…。読者は「戯言(ざれごと)シリーズ」を全部読んでいるという前提になっています。

しかし、読み進むと、なかなか面白いです。文章のリズムがよくて、似た文の繰り返しと対比が特徴的です。
弱さじゃない確かな強さに、甘さじゃない確かな優しさに、 とか
<幸福>にして<不幸> とか。
それと、言わずもがなの萌えキャラ。妹格の美少女、崩子ちゃんが背中に抱きついてきたり、メイドのひかりさんが「ご主人様」と言ったり…。江本園樹ドクターの壊れた人格にも笑えます。まさにコミックのノベライズみたいですね。

ただ、ちょっと展開が遅い感じ。ここまで引っ張れるのは、相当な筆力と言えるかも。本格的な戦闘シーンが始まっていないのでこれは(中)に期待です。しかし「戯言(ざれごと)」って何かの技なのかな?
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by bibliophage | 2005-06-27 07:22 | その他小説
ミュージカル・バトン
楽生活ブログ kurauseiさん から「ミュージカル・バトン」を回していただきました。
音楽のことでしたら喜んで答えます♪

「ミュージカル・バトン」
1. 今パソコンに入っている音楽ファイルの容量
2. 最後に買ったCD
3. 今聴いている曲
4. よく聞く、または特別な思い入れのある5曲
この質問に答えて、5人のブロガーに同じ質問をトラックバックする。

d0018433_11164245.jpg
回答:
1→ ゼロ(笑)。iPod購入予定。
2→ アランパーソンズ・プロジェクトのベスト盤
    『 Works 』 
3→ 最後に聞いた曲:REMの 『 Losing my
    religion 』
4→ プリンス 『 Little red corvette 』
   スティーリー・ダン 『 Hey Nineteen 』
   マイケル・フランクス 『 Antonio’s song 』
   アース・ウィンド&ファイア 『 After the love is gone 』
   ドゥービー・ブラザース 『 Long train running 』 etc etc


さて、いつも見ているブログで音楽の記事があるものというと…
→ ショールームダミーズ ゆきさん 
→ 読んだ本、読みたい本、聞いたレコード hon_kamiさん
のお二方に回します。
ご迷惑かもしれませんが、気が向いたら回答よろしくお願いします♪
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by bibliophage | 2005-06-26 11:23 | 音楽
『不機嫌なメアリー・ポピンズ』 英国階級社会・入門編
d0018433_70293.jpg著者:新井潤美 
書名:不機嫌なメアリー・ポピンズ
発行:平凡社
意外度:★★★★☆

英文学の専門家新井氏による作品を通したイギリス階級社会の解説。

イギリスの階級社会は貴族・大地主のアッパー・クラス、准男爵から医師・弁護士・富裕商人までのアッパー・ミドル・クラス、その下にミドル・ミドル、とロウアー・ミドル、そして労働者階級であるワーキング・クラスと別れている。特にミドル・クラス内部での結婚や教育による微妙な階級の上がり下がりが、イギリス文学や映画において重要なポイントになったり、コメディのネタになったりする。

これらの階級による微妙な英語の言い回しの差や考え方、生活の差が多くの作品に反映されており、幼少時より香港、イギリスなどで暮らした著者だからわかるその違いを、以下の作品を取り上げて説明しています。

1章:『エマ』 『ブリジット・ジョーンズの日記』
2章:『ジェイン・エア』 『メアリー・ポピンズ』 『レベッカ』
3章:『大いなる遺産』 『眺めのいい部屋』 『コレクター』
4章:『タイム・マシン』 『時計仕掛けのオレンジ』 『ハリー・ポッター』
5章:『日の名残』 『郊外のブッダ』

面白かったのは、原作でのメアリー・ポピンズはにこりともしない厳格なナニー(これが実際に近い)だったり、アッパー・クラスでは「インテリでないことが美徳とされる」ことなどで、この本を読む前のイギリスについての常識が全く違っていることがわかります。ミドル・クラス内部での上下に一喜一憂するイギリス人は、われわれには到底理解できないし、それだけ階級社会が歴然として存在することもはじめて知りました。

ハリー・ポッター』でのハリーが両親ともに魔法使いであるという「上流階級」であるのに対し、ハーマイオニーは(両親とも人間で)努力で「成り上がった」とみなされるというのも、階級社会の反映ということでした。

イギリス階級社会のわかりやすい入門書としておすすめです。

関連サイト: 英国通になるための豆知識 UnoMinのイギリス生活
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by bibliophage | 2005-06-23 07:00 | 新書
『雷電本紀』 若・貴なんぞ吹っ飛ばす大迫力
d0018433_3391081.jpg著者:飯嶋和一 
書名:雷電本紀
発行:小学館(文庫)
ぶちかまし度:★★★★☆

『黄金旅風』の飯嶋氏が書いた江戸時代の大力士雷電の伝記小説。

杉浦日向子『一日江戸人』に雷電のことが書いてあり(圧倒的な勝率254勝10敗!!&相手を投げ殺した??)、とても気になっていた力士なので早速読んでみました。

1790年(寛政2年)江戸の勧進相撲に突如怪物力士が登場した。雲州松江藩所属の雷電為右衛門。それまでの申し合わせの軟弱相撲を打破するガチンコ勝負で連戦連勝。貧しい信州の出身地では一揆が起きて多くの農民が死んでいた。その苦悩を背負った雷電は、ライバルたちと激しい相撲を取り続ける。

時代の風俗・習慣など実によく調べてあり、金物商人鍵屋助五郎との交流を通して、リアルに当時の情景が浮かび上がります。江戸時代の火事がいかに恐ろしかったかよくわかります。
相撲の話なので、対戦の場面はつきものですが、まるでビデオを見るような細密描写で驚きます。
谷風や小野川を含む江戸の有名力士たちが特徴を持って描かれていて、特に遊び人の千田川が魅力的です。雷電は20年も相撲を第一線で取り続けていますが、その間に他の力士たちが死んだりして、時の流れを感じさせます。またこれが最後の事件へとつながっていきます。

とにかく大力作なのですが、残念なのは長過ぎることです。最初の一揆の場面と最後の鐘鋳造事件の間にもう少し起伏が欲しい。あと、雷電が四書五経に通じた文化人というのは作り過ぎで浮いています。

d0018433_3414916.jpg面白かったのは、八百長=こしらえ相撲というのは昔からあったことです。雷電は勝率からみても本書の内容通り真剣勝負ばかりだったようで、全盛期の北の湖のような強さで、むしろヒールの扱いだった感があります。
個人的には、相撲はプロレスと同じでショーだと思いますので、今さら若・貴の八百長を大騒ぎする理由がわかりません。しかし、最近の弱い力士(特に日本人)を見ると、この本でも読んで雷電を見習い、もっと真剣にけいこして欲しいとは思いました。

江戸情報満載の作品でおすすめですが、読むほうも体力がいると思います。
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by bibliophage | 2005-06-20 03:49 | その他小説
将棋: 瀬川さんのプロ入り問題 その2 プロテスト
d0018433_22563763.jpgプロをなぎ倒すトップアマ瀬川晶司氏のプロ入り編入試験の詳細が決定しました。

予想通り全6局で3勝で合格です。この対戦相手がなかなか面白くて、よく考えられているな~と思いました。◎です。

第1局 佐藤天彦 三段 (奨励会のトップリーグ在籍)
「奨励会員の気持ちを配慮して最もふさわしいと判断した」とコメントされています。これが最も大事な勝負です。佐藤氏は一度フリークラスの権利を得たのに、それを放棄した人物なので、実力3.5段。彼が負けると奨励会員は今回の決定に全く不満が言えなくなるので、佐藤氏も代表として必死でしょう。実力ほぼ互角かやや瀬川氏が強いと思われます。

第2局 神吉宏充 六段  
順位戦C2組からフリークラスに陥落した棋士。 普通にいけば瀬川氏勝ち。

第3局 久保利明 八段 
本当のトッププロ。瀬川氏に一度負けており、絶対に連敗できません。まず久保八段が勝つでしょう。

第4局 中井広恵 女流六段 
女流のトップ3で、男性棋士をしばしば破っていますが、瀬川氏の方が強いでしょう。

第5局 熊坂 学 四段 (中原誠 副会長の代打) 
若手ですが、今年フリークラスに陥落した棋士。瀬川氏の勝ちと予想。

第6局 長岡裕也 四段 (米長邦雄 会長の代打) 
ピカピカの新4段。順位戦黒星スタート。ほぼ互角~やや瀬川氏強いか?

以上、順当では瀬川氏は3勝以上できるハズです。予想としては○○×ときて、中井さんに勝って3勝で決まり。女性が負けて終わるのは、何か連盟の責任逃れのようで若干ズルイ感あり。
しかし、勝負はわかりません。もし最終局にもつれ込んだら大変です。とにかく最初の佐藤戦が大一番です。7/18が楽しみです。

追記:米長会長のあいさつで「第5局・第6局は対局の他に人柄、品性も含めた理事会代表者による面接方式とお考えください」とあるのが、ひっかかります。米長氏は自他ともに認める遊び人なので構いませんが、中原副会長は以前の「林葉直子問題」で世間の大ひんしゅくを買ったことがあるので、他人の「人格、品性」を言える立場ではないのでは??
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by bibliophage | 2005-06-18 22:59 | ニュース関連
『クラインの壺』 SFとミステリーの融合
d0018433_21202529.jpg著者:岡嶋二人 
書名:クラインの壺
発行:講談社(文庫)
仮想現実度:★★★★★ 

徳山諄一+井上泉=岡嶋二人、名義での最後の作品。あとがきによれば、この作品はほとんど井上(夢人:改名)氏一人によるもののようです。1989年新潮社より刊行。

上杉彰彦の書いたシナリオ『ブレイン・シンドローム』がイプシロン社によってゲーム化された。驚くべきことにそのハード:クラインの壺は、ゲームの内容を五感を通して体験させる、バーチャルリアリティーを完璧に実現したものだった。ゲームの最終テストに被験者として参加することになった彰彦は、次第に自分の周りの現実にズレが生じていることに気づき始める。

この作品は、ミステリー的な展開を持ったカジュアルなSFという感じです。バーチャルリアリティーがまだまだ進んでいない現在において、この作品の内容はいまだにインパクトがあります。しかもこれが15年以上前に書かれていたことに驚愕しました。プロットのセンスが素晴らしい。文章もとても読みやすく、展開が自然なのですらすらと読み進めます。

クラインの壺とはメビウスの輪の四次元版で、内側と外側の世界がねじれてつながった図形を示す用語のこと。   
この作品におけるゲームも、まさにバーチャルとリアルを行き来するもので、その境目が徐々に渾然としてきます。その混乱の果てに彰彦が至った決断とは?

これは『オルファクトグラム』も読まなくてはいけないな、と思いました。

井上夢人氏HP  
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by bibliophage | 2005-06-15 21:25 | ミステリ-
『靖国問題』 クリアな分析と曖昧な対策
d0018433_1261655.jpg著者:高橋哲哉 
書名:靖国問題
発行:筑摩書房
明快分析度:★★★★☆

現代西欧哲学を専門とする東大教授 高橋氏による靖国問題の分析。

多面的に靖国を取り上げて、そこに存在する問題を議論しています。
第一章は「感情」。歴史的には、靖国神社が、戦死者を顕彰(広く世間に表彰)することで、遺族の感情を「悲しみ」から「名誉」へと変換する「感情の錬金術」の中心機関であったということを説明します。
第二章は「歴史認識」。A級戦犯分祀問題と旧植民地出身者の合祀取り下げ問題について語ります。靖国問題は、戦争責任だけでなく、近代の植民地主義全体からとらえないといけない、というのが主張です。
第三章は「宗教」。憲法20条の政教分離規定により、首相の参拝は違憲になる、これは司法の判断でもあること。公式参拝をおこなうためには、①憲法「改正」か②靖国の特殊法人化しかないが、どちらも現実には不可能であること。また、戦時下においてキリスト者が無惨にも靖国信仰の中に取り入れられたこと、などが述べられます。
第四章は「文化」。靖国が「日本の文化」の問題であるという議論を糾弾しています。靖国が祀るのは「軍人の戦死者」だけであって、国内の民間人の戦死者は蚊帳の外であることなどが記されています。

次に、第五章「国立追悼施設」の話に進みます。以上の諸問題を自覚しつつ、「戦没者追悼」にこだわるためには「無宗教の国立施設」の建設という選択がでてくる。しかし「靖国派」の抵抗があって棚上げ状態である…。

ここまでは、著者の分析はとても明晰で、そうなのかと思いながら読み進みました。では、どういう対策を考えるのだろうのかと思っていると、
新たな追悼施設でさえ第二の靖国になる可能性は十分あり得る。それを絶つためには、戦争に備える軍事力を実質的に廃棄することだ
と来ました。
残念ながら、北朝鮮が核をちらつかせ、中国・韓国が常に国境を脅かしている現在、国防力を放棄するというのは非現実的であり、この部分の蛇足が惜しまれます。

しかし、靖国問題の由来から本質、現在の状況までをわかりやすくまとめた本書の意義は大きく、一読の価値はあると思います。
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by bibliophage | 2005-06-13 12:16 | 新書
将棋: 加藤九段の「待った」事件 Shame on him!
「日本将棋連盟は10日、加藤一二三九段が第13期銀河戦で「待った」の反則をしたとして、来期の同棋戦への出場停止と罰金の処分を決めたことを明らかにした。同反則による処分は極めて異例という。
 処分対象となったのは、5月下旬に「囲碁・将棋チャンネル」で放送された阿部隆八段との対局。終盤で桂馬を「成らず」と指した直後、「成り」に変更した。対局は加藤九段が勝ったが、視聴者から抗議があり、連盟がビデオで確認、処分を決めた。」
(時事通信) 

d0018433_95235100.jpgもちろん素人ではないので、相手が指してから「それ、待った」と言っているわけではありません(笑)。瞬間、指が離れてから、すぐ差し直したようです。しかし、これは明らかに「待った」になります。

日本将棋連盟HPのルール説明「反則」のところには、
「反則を行なった側は、ただちに投了しなければなりません。反則の種類はいくつかありますが、……「二歩」「打ち歩詰め」「王手放置」「動けないところに駒を進める」「二手指し」などがあります。」
とあり、「待った」は記載がありません。

しかし、連盟HPの今回の事件の記事には、
「5月26日放映の……ビデオを確認したところ、加藤一二三九段に「待った」の反則があった事が確認されました。……なお、第13期銀河戦の該当の対局につきましては、加藤勝ちに変わりはなく、次の対局も予定通り放映されます。」
と書かれており、「反則」という記載があります。

対局規定(抄録)には、
「第8条 反則 : 対局中に反則を犯した対局者は即負けとなる。 ……
3. 終局後は反則行為の有無にかかわらず、投了時の勝敗が優先する(投了の優先)。」
とあるので、「反則はあったが、相手も第三者も対局中に指摘しなかった。だから加藤勝ち」となるようです。

今回、たまたまTV将棋だったので、視聴者が見てしまったわけです。それにしても大恥です。

どうすべきだったのでしょうか?
d0018433_9574668.jpg記録係り(奨励会員や女流棋士)は当然気づいたハズなので、すぐに連盟に届けて判断を仰ぐ必要がありました。TV将棋は録画なので、差し替えなどの時間的余裕があるはずです。TVのプロデューサーも気づかなかった(か気にならなかった)としたら、こちらも失格です。

神武以来の天才と言われ、名人まで獲得した加藤九段も、(名人を目指す)順位戦では現在B2組(五段階の三番目)の下位まで番付を落としています。今回のことでさらに評判を落とした上は、C1組へ陥落したらいさぎよく引退すべきでしょう。元名人が「待った」では権威も何もあったものではありません。

blogの関連記事:  と金通信局
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by bibliophage | 2005-06-12 10:01 | ニュース関連
『弥勒の掌』 どんでん返し炸裂!?
d0018433_8532071.jpg著者:我孫子武丸 
書名:弥勒の掌(て)
発行:文芸春秋
新趣向度:★★★★☆

殺戮にいたる病』の著者 我孫子氏が13年ぶりに書きおろした長編ミステリー。

私立高校の数学教師 辻恭一。以前、教え子の女子生徒と問題を起こして以来、妻との関係は冷えきっていた。ある日帰宅すると、その妻が失踪していた。一方、こわもての刑事 蛯原の妻がラブホテルで殺されるという事件が起きた。この二つの事件には、新興宗教「救いの御手」が関係しているらしい。亡き妻の復讐を誓った蛯原は、辻と協力して犯人を探し出そうとする。

教師の章と刑事の章が交互に進行します。(これが実はくせもので…。)そこに新興宗教がからむという構図は、あるミステリーと瓜二つです。貫井徳郎『慟哭』。我孫子氏は『慟哭』の形式を借りて、全く異なる趣向を用意しました。

最後に二人は「救いの御手」の本部で教祖の「弥勒」と対面し、驚愕の真相が明らかにされます。
・・・びっくりした~。な、何それ~、という感じで、しばし動けず…。
馬鹿馬鹿しいミスリードには、腹は立たずに吹き出しました。そして交互の章をちょっと読み返しました。ふ~む、なるほど…。

巻末に著者インタビューが掲載されていますが、我孫子氏は「人物が描けていない」と言われるのが(その表現も含めて)気にさわるようです。この作品では対照的な二人、辻と蛯原の描写は行き届いていて、文章も読みやすく、その心配はないと思います。

ただ一つだけ問題なのは、この結末はone of themの可能性であって、必然性がない、すなわち伏線がほとんどないのが残念なところです。動機も弱いです。だから、本格ではありませんし、かと言って叙述ミステリーでもないのです。普通のミステリーでは何か書いておくべきところを、我孫子氏はわざとはしょっているのです。
なので、『慟哭』と比べると驚愕の余韻にひたる時間が短く、軽い印象を受けてしまいます。

とは言っても、考えてもみなかった結末で驚かせてくれたので、十分満足しました。新趣向はまずは成功と言えるでしょう。
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by bibliophage | 2005-06-11 09:00 | ミステリ-