ストレスがたまったら本のまとめ買い。結果は積ん読。なんとかしなきゃ…。ということで書評のブログです。ときに音楽や趣味の記事も…。
by bibliophage
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『決断力』 天才の頭の中、一挙公開
d0018433_2345399.jpg著者:羽生善治 
書名:決断力
発行:角川書店(新書)
集中度:★★★★★

史上最強の将棋棋士、過去に7冠、現在4冠の羽生氏が語る、勝負における考え方。

1章:不利な局面でも諦めずに、淡々と粘り強く指す。マイナス思考に打ち勝てる理性を育てなくてはならない。未知の世界に踏み込み、自力で考えること。「これでよし」と消極的になるのが一番恐い。
2章:直感によって指し手を思い浮かべ、読みの力で検証し、決め手は「決断力」である。
3章:頭の中に空白の時間を作り、「集中力」を発揮する。将棋でもミスは日常的に起こる。感情のコントロールが必要である。
4章:パソコンを使って最新の手を研究し続けなければならない。また、自分でもアイデアを持って新しい手を試し、違った戦法にも挑戦しなければならない。
5章:同じ情熱を持続して持ち続けられることこそ才能である。年令によって勉強法を変えることが必要。


さすがに第一人者のことばは、こと将棋だけでなく、ビジネスや人生の局面においても役に立ちそうな本質を説いているように感じます。
私の最も好きな棋士は谷川九段ですが、残念ながら羽生4冠に水をあけられ、佐藤棋聖、森内名人とも差が開きつつあります。羽生世代の棋士たちの強さの秘密の一部を知ることのできる内容だと思いました。

故大山名人は実はあまり深く読んでいなかった」とか、「最近の若手は自分と対戦してもやけに伸び伸びやっている」とかの本音も面白かったです。スポーツの中で、テニスが一番将棋に似ている、という指摘も興味深いところでした。
将棋を知らなくても楽しめる本だと思います。
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by bibliophage | 2005-07-31 23:52 | 新書
『花まんま』 昔の大阪、そのまんま
d0018433_1035824.jpg著者:朱川湊人 
書名:花まんま
発行:文芸春秋
形而上度:★★★★☆

2002年オール読物推理新人賞を獲得してデビューした朱川氏の、あっという間の直木賞受賞作。東野圭吾はもうだめぽ…。

30年以上前の大阪の長屋街を舞台にした6編の奇妙な話。子供の地縛霊、前世を知る女の子、人を安楽死させる呪文、など。

朱川氏の子供時代の記憶に、心霊話をからめて構成されており、とても読みやすく面白い内容でした。関西生まれの私には「パルナスのケーキ」というのが、いたくなつかしく思えました。
朝鮮人、被差別地域出身者、地方の貧しい島の娘、などの人々の悲哀が、ストレートに表現されていて、とても好感が持てました。最近の小説の、意味も無くハッピーエンドにもっていこうとする傾向と違って、リアリティが感じられます。時代を昔に設定したことで可能になる表現かも知れませんが。

デビューまでの期間が長かった朱川氏ですが、文章はとても練れていて、話の落とし方も上手く、ユーモアもあり、今回の受賞はフロックではないと思います。(相手にも恵まれた感あり、文芸春秋の計算通りか)
今後の作品に期待します。
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by bibliophage | 2005-07-30 10:05 | その他小説
『タイムスリップ森鴎外』 馬鹿馬鹿しい!…しかし、面白い
d0018433_2053716.jpg著者:鯨統一郎 
書名:タイムスリップ森鴎外
発行:講談社(文庫)
くだらな面白度:★★★★☆

バカミスで有名な覆面作家、鯨氏によるタイムスリップ・ミステリー。

毒を盛られているのか、日に日に衰弱していく森鴎外。渋谷の道玄坂を歩いていた彼は、誰かに押されて転落し、そのまま現代の日本へタイムスリップしてしまう。女子高生に助けられ、徐々に新生活に慣れた鴎外は、自分を殺そうとした犯人をつきとめようとする。

一番の見所はやはり、ギャップに戸惑う鴎外と、それからの変身振りでしょう。女子高生に「モリリン」と呼ばれ、髪を染めて、ラップを歌う鴎外。なかなか笑えます。そこに国文学のトリビアを織りまぜて話が進むので飽きません。
鴎外を含め、17人もの殺人を計画した有名人は誰なのか?こじつけがメチャクチャ馬鹿馬鹿しいのですが、面白いので許します。

時間の経過につれて歴史が変わり、鴎外の作品が徐々に無くなっていくというSF設定も興味深いところでした。

以前の作品で『とんち探偵・一休さん 金閣寺に密室(ひそかむろ)』というのがありますが、これを「ひそかむろ」と読ませるところに鯨氏の諧謔のセンスを強く感じます。
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by bibliophage | 2005-07-27 20:53 | ミステリ-
『31歳ガン漂流』他 これが本当のリアリティー
d0018433_23574297.jpg著者:奥山 貴宏 
書名:31歳ガン漂流、32歳ガン漂流エヴォリューション、33歳ガン漂流ラスト・イグジット
発行:ポプラ社、牧野出版
壮絶度:★★★★★

今日の新聞朝刊広告掲載の本 さんの記事を見て知りました。

31歳のフリーライターであった著者は、体調不良で病院を受診し、入院検査の結果、進行肺癌で余命2年と告げられる。彼は残された年月を文章を書くことに集中する決心をし、病気と戦いながら、雑誌での執筆とウェブでの闘病日記(↓)の更新に全精力を費やしていく。

奥山のオルタナティヴ日記31歳~ガン闘病編  
・ガンエヴォ 

いや~、すごい!壮絶な闘病生活と骨身を削る執筆態度には頭が上がりません。
最初は病院や他の入院患者に当り散らしていた著者が、最後の方では死を悟ったかのように変わっていく様子には泣けました。

2004/12/20
この間の腹部CTの結果はやはり、悪化していて腫瘍が大きくなっていた。…
ベッドのシーツの臭いを嗅ぐとなぜか心が安らいだ。病気や死を受け入れたかのように、オレは病院も受け入れてしまったというのだろうか。以前はあれほど嫌悪して抜け出そうと努力していたというのに、どうしてこんなにも穏やかな精神状態で入院を迎えてしまっているのだろう。
2004/12/21
夜はモルヒネを飲んで眠る。一日の中で、モルヒネを飲むのが唯一の楽しみのようになってきてしまっている。


しかし、「退屈な人間になってしまうから」という理由で最後までホスピス生活を拒否し、自宅で仕事を続けた奥山氏の精神力に感嘆します。
2005年4月17日に亡くなられました。ご冥福を祈ります。

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by bibliophage | 2005-07-26 23:58 | その他小説
『音楽ライターが書けなかった話』 ミュージシャンたちのちょっといい話
d0018433_1820565.jpg著者:神舘和典 
書名:音楽ライターが書けなかった話
発行:新潮(新書)
音楽好き度:★★★★★

20年以上音楽ライターとして生きてきた神舘氏が書く大物ミュージシャンたちの素顔。

私はなぜ音楽ライターをやっているのか――。……心が震える瞬間というのは、インタヴューで、音楽家も隠されている魅力や素顔に触れられたときだ。その喜びを忘れることができず、この仕事を続けている……(「はじめに」から)

まさに上記のように、著者の質問によってミュージシャンの本音、本質が表れるような内容になっています。
坂本龍一が映画「戦場のメリークリスマス」で、自分の俳優としての演技の下手さをマスクするために、出演場面すべてに音楽を入れた、とか。
EW&Fが彼らの思いとは別に、「ダンス・ミュージック」と評価されていたことに対して、「それなら逆にダンスを意識した作品を一曲だけ作ろう」ということで、『ブギー・ワンダーランド』が生まれた、とか。

他にも、「ロック・オデッセイ」という日本でのフェスティバルで、ザ・フーが演奏しているのを、トリが予定されていたエアロスミスが舞台袖から熱心に見ていた、などの話が載っていました。

ニューヨークでの大物ジャズ・プレーヤーたち(ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターetc)のインタヴューも読みごたえがあり、音楽好きであれば是非チェックすべき本だと思います。
神舘氏の音楽とミュージシャンに対する愛情が伝わってくる内容で、その点、烏賀陽氏の新書と好対照でした。
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by bibliophage | 2005-07-23 18:23 | 音楽
つかの間の京都
d0018433_7104474.jpg出張で昨日京都へ。夕方に着いたので、建仁寺(←)も拝観できず。

清水寺(↓)もまさに門前払い。

それにしても何でこんなに暑いのか。(最高気温 36.0℃ !?)
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二年坂(↑)。八坂の塔(→)。

今日は一日仕事・・・。
次回はゆっくりしたいものです。
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by bibliophage | 2005-07-22 07:29 | その他
『鏡の中は日曜日』 D難度の本格
d0018433_7575448.jpg著者:殊能将之 
書名:鏡の中は日曜日
発行:講談社(文庫)
アンチミステリ度:★★★★☆

メフィスト賞『ハサミ男』でミステリーファンをあっと言わせた殊能氏による本格派の変化球。

14年前、鎌倉の梵貝荘で起きた殺人事件。これは,名探偵の水城優臣が解決し、助手・作家の鮎井郁介が小説として発表していた。その事件の再調査を依頼された探偵、石動戯作は、当時の関係者たちを訪問する。その中には、現在痴呆症に陥っている人物が含まれていた。それは誰か?そこでもう一つの殺人が起きる。殺されたのは誰なのか?真相はどうなっているのか?

本格推理を知り尽くした作者が、そこに何重もの仕掛けを加えて作り上げた作品。ここまでくると、もう感嘆するしかないという感じです。
まずストーリー・イン・ストーリーとして、館物の本格推理「梵貝荘事件」があります。これはほら貝型の不思議な館と、殺人のトリック、仏文学をからめたこじつけの(笑)推理と、本格のステレオタイプの構成をしています。
以下はかすかにネタバレです。
この事件の関係者として、痴呆症の人物とその介護者がからみ、一種の叙述トリックが用いられます。作者としては、「痴呆」と「地方」の二つのミスディレクションをしかけています(ということにしておきます(笑))。
さらに、最後で水城探偵についてもう一段捻ってきます。(新月面宙返りみたいです。)
もうフェアとかアンフェアの段階を超越した作品で、堂々たるアンチミステリーといえるのではないかと思います。
作中人物に「フェミニスト・サイコスリラーで人間の心の闇を描ききった俊英」という表現があるのが笑えました。

水城探偵の出てくる番外編 『樒/榁』 も収録されています。
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by bibliophage | 2005-07-21 07:58 | ミステリ-
『CIA 失敗の研究』 なぜ9.11テロは防げなかったのか?
d0018433_8302581.jpg著者:落合浩太郎 
書名:CIA 失敗の研究
発行:文芸春秋
情報度:★★★★★

国際政治学の専門家、落合氏によるCIAを含むアメリカ国防体制批判。

諜報機関の仕事はスパイだけでなく、「情報収集」「分析」「秘密作戦」「防諜」の4つに分けられ、アメリカにはCIAを含めて15の機関が存在する。
真珠湾の反省から作られたCIAも官僚機構と動脈硬化が進み、9.11テロに至る失敗を引き起こした。その歴史を検証し、問題の在り処を提示する。(前書き他より)


1章「諜報機関の実像」は、CIAの構造と仕事内容について。カウボーイタイプの「作戦本部」と学者タイプの「情報本部」の他「科学技術本部」「管理本部」。以前日本政界の実力者の訪米の折に、排泄物を調べて健康をチェックしたとのエピソードあり。
また、他の機関として、国防情報局(DIA)、国家安全保障局(NSA)、4軍の諜報部門や司法省下のFBIなどがある。
2章「1990年代のCIA」では、1994年に逮捕されたロシアのスパイ、エームスの事件を取り上げ、CIAの規律の低下が書かれている。また、ウルジー、ドイッチェ、テネットという歴代長官の無能ぶりも述べられている。
3章「失われた10年」では、1991年に最大の敵ソ連が崩壊して以降、冷戦状況から対テロリストへの方針の転換が進まず、官僚機構がはびこったことがあげられている。それにより、中東専門の人員が不足し、4章「CIAとアルカイダ」にあるように、テロ実行の情報を前日に受け取りながら見逃されていた、という事態に至ってしまった。
しかし責任があるのは、CIAのみではなく、5章以降に書かれているように、内政重視だったクリントンやミサイル防衛にとりつかれたブッシュ、FBIや他の諜報機関との縄張り争い、9.11が起きるまで無関心だったマスコミなど、罪無きものはいない状態であると筆者は言う。

巻末に参考文献が多くあげられており、この本の情報度の高さを物語っています。実際、はじめてアメリカの諜報機関をオーバービューすることができました。内容が濃く、一読の価値がある本だと思います。(気になる点として、記載の重複が随所にあり、章立てに工夫が必要なように思いました。)
筆者もいうように、リーダーシップをもった大統領がすぐれた諜報機構の長(現在なら新設された国家情報長官)を任命して、各機関が官僚機構を打破し縄張り争いをなくして協力するしか改善の道はないわけです。
まあ、大統領にあの程度の人物が選ばれている国なので、絶対無理だと思いますが…。
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by bibliophage | 2005-07-19 08:31 | 新書
『大学教授コテンパン・ジョーク集』 冗談にはセンスが必要
d0018433_2120819.jpg著者:坂井博通 
書名:大学教授コテンパン・ジョーク集
発行:中央公論新社
ユーモア度:★☆☆☆☆

埼玉県立大保健医療福祉学部教授、坂井氏による各学部別の主に教授に関するジョーク集。

いや~まいりました。これほど笑えないジョーク集も珍しい。
初めて海を見た物理学教授は、波の流体力学の研究がしたくなった。海の中を歩いたらじきに溺れて、帰らぬ人となった。生物学教授は…(略)。化学教授は始めて海を見て、ノートに記録を書いた。「物理学者ならびに生物学者は大洋に溶解する性質を有する」
って、何が面白いのでしょうか?

冗談を言うためには、人の言ったジョークが面白いことを理解するための受容体ができていることが必要条件。この著者はその段階でつまずいているようです。
d0018433_21244072.jpgまず筒井康隆や土屋賢二(『われ笑う、ゆえにわれあり』)でも読んで、ジョークとは何かをよ~く学んでから出直して欲しいものです。

(あっ、第9章医学部の中にいくつか面白いものがありました。内容がシモネッタなので書けませんが、法医学の話etc。この章だけ立ち読みする価値あり。残りの9章は全然でした…)

中公新書ラクレの担当編集者は、この本が本当に面白いと思っているのでしょうか??
久しぶりにコテンパンに書いてしまいました。関西生まれなので冗談にはどうしても厳しくなってしまいます。
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by bibliophage | 2005-07-16 21:26 | 新書
『死神の精度』 新しい死神像
d0018433_7172270.jpg著者:伊坂幸太郎 
書名:死神の精度
発行:文芸春秋
ユニーク設定度:★★★★☆

『重力ピエロ』が直木賞候補になった人気作家伊坂氏の短編集。
売れています。ヤフーの文芸書ランキングでも初登場3位(7/5付)。最新号の週間文春にも書評あり。

雨男である・音楽が好き・日本語の言い回しが時々わからない、という特徴を持った(人間の格好をした)クールな死神を主人公とする以下の6編の構成です。彼が担当する人間は8日目に死ぬ運命にあり、それで「可」なのか、それとも死を「見送る」べきか、を判断するのが仕事です。
1. 死神の精度:企業のクレーマー担当係の女性
2. 死神と藤田:筋を通すやくざ
3. 吹雪に死神:吹雪の山荘に集まった人々
4. 恋愛で死神:イケメンでシャイなブティック店員
5. 旅路を死神:人を刺し殺した若者
6. 死神対老女:センスの良い70歳の美容師


死神の設定がとてもユニークで、この時点で面白さが保証されたようなものです。人間との会話が時々ずれるところが笑えます。
話の中に必ず謎を入れてあるところが憎く、興味をもって読み進めます。ストーリーの展開、登場人物の背景の書き方も冴えていて、とにかく「上手い」なあと思ってしまいます。直木賞は秒読みというところでしょうか。

絶対に読んで損をしない本だと思います。
と言っておいて、気になる点を少し。
8日後のことがわかる死神でなくてはならない必然性、という内容は厳密には2.「死神と藤田」だけではないかと思いました。私は6編の中ではこれが最も面白く、伏線とオチに感心しました。一方、3.の吹雪の山荘モノは、面白いしかけもなく、イマイチと感じました。
4.「恋愛で死神」。彼女が「萩原さんが家にくる」とは普通言わないのでは。
6.「死神対老女」は未来の設定になっていますが、その割に描写は現代のままで、前の話と連関させる必要性がよくわかりませんでした。死神が晴れ間をみるという展開は、このシリーズはこれで打ち止めということなのかな?

私が最も好きな伊坂作品である『オーデュポン~』と比較すると、(短編ということもあり)インパクトはやや小さめでしたが、とにかくよく考えられた連作集であり、この死神シリーズは今後も続けて欲しいと思いました。
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by bibliophage | 2005-07-15 07:21 | その他小説