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ストレスがたまったら本のまとめ買い。結果は積ん読。なんとかしなきゃ…。ということで書評のブログです。ときに音楽や趣味の記事も…。
by bibliophage
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『グレート・ギャツビー』 華麗なる翻訳文
『グレート・ギャツビー』 華麗なる翻訳文_d0018433_21393346.jpg著者:スコット・フィッツジェラルド、村上春樹訳 
書名:グレート・ギャツビー
発行:中央公論新社
流麗度:★★★★★

村上春樹氏が20年間目標とした小説を遂に翻訳。

<ニックはニューヨーク郊外ウェスト・エッグの小さな家に住んでいた。その隣には謎の億万長者であるギャツビー氏の邸宅があり、そこでは毎週末、豪華なパーティーが催されていた。ある日、ニックはそのパーティーに招待され、ギャツビーと出会う。そして後日、女友達であるジョーダンを通して、ギャツビーからある頼みごとを持ちかけられる。>

素晴らしい…。
文章の美しさ、悲しいストーリー、訳の巧みさ、村上氏の思い入れの深さ。
本文とあとがきを通して、何度も感激してしまいました。

村上氏はあとがきで、
「もし『グレート・ギャツビー』という作品に巡り会わなかったら、僕はたぶん今とは違う小説を書いていたのではあるまいか…」
「…僕はこの『グレート・ギャツビー』という小説を翻訳することを最終的な目標にし…これまでの翻訳家としての道を歩んできたようなものである。」

というように、その熱き思いを語っています。

本文で特に美しいと思った場面。
・ p171 ギャツビーが色とりどりなシャツを投げ放つ箇所。
・ p272 デイジーのきらびやかな社交の世界。
・ p291-2 ギャツビーを乗せた浮きマットがプールを漂う様子。

村上氏の本書翻訳における2大方針:「現代の物語にする」「文章のリズムを生かす」。
確かに、古臭さは全く感じませんでしたし、流れるように読めてほとんどひっかかりませんでした。You passed!
面白かった訳語。p63「エクトプラズムのようにぼんやり浮遊している…」。
何度かでてくる「あほらしい○○」という表現。
p78 「ケータリング業者から軍団が…」。

ストーリー的には、(ちょっと得体の知れぬ)財産家であるギャツビーのかなわぬ純愛、という所がいいですね。最後デイジーをかばうところは騎士道精神風です。
また、愛する人の帰りを待てずに他の人と結婚する女性という設定からは、『金色夜叉』をちらりと思い浮かべました。

春樹ファンは必読でしょう。彼の作品における文章の美しさが、翻訳者としての並々ならぬ実力の上に存在していることがよ~くわかりました。読む順としては、まずあとがきを、それから本文を、そしてもう一度あとがきを。

今回の訳を読んで、この美しい物語を心から愉しむことができましたし、村上氏がずっと宝物のようにいつくしんできたという理由がよく理解できました。
とにかく、おすすめです、オールド・スポート
by bibliophage | 2006-12-02 21:44 | その他小説
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